「もう平気?」
雨露の言葉に大号泣した雨久が落ち着いたのは並べられた料理が半分以上減ってからだった。
正直泣きながら準備する雨久も、震えながら食事する姿も見ていて面白かった。
「……はい、お見苦しい所をお見せしました」
「見苦しい以上に腹が捩れて死にそうだったな」
そう言ったみこのみはまだ半笑いだった。
「うるさいな……」
あそこまで感動できる奴もそういないんだろうな――……。
改めて雨久というか雨男にとって雨師は特別なのだと思わせた。
「素直でいいんじゃねーの」
ただ他の雨男に比べて雨久は雨露への崇拝する気持ちが強い。
けどまぁ素直に言葉を受け取る事ができるのはいい事だと俺は思う。
「そうだぞ」
楽しそうに箸を伸ばす雨露の頬は薄っすらと赤い。
……なんとなくこの後の展開が読めるというか。
「素直で可愛い雨久に俺から酒を注いでやろうではないか」
「そんな、寧ろ俺が……」
「良いでは無いか。
お前が酔いつぶれてもその隣の狐様が介抱してくれる」
雨久が潰れたら介抱はしてやるけど……。
「潰すまで飲ますな」
潰す気満々で飲ますのはやめてほしい。
酒は程よくが一番うまいのに。
「大丈夫です、俺は大丈夫です」
「…………」
既に言動が不安なんだけど……。
「ではお言葉に甘えて……」
…………一時間後。
「絶対こうなるって思った」
「奇遇だな。俺もだ」
……結局雨久は雨露に潰され、そのとばっちりを受けた雷梦も撃沈したのだった。
「――……」
雨久を寝かした後、勝手に風呂を借りていた。
帰ろうかと思ったが酔い潰れた奴だけを残して行くのは気が引けて泊って行くことにした。みこのみがいるから大丈夫なんだろうけど……。
「はぁ――……」
風呂っていいよな。綺麗になるし気持ちいいし。
「――……?」
湯船に沈むように浸かっていると脱衣所から物音が聞こえて……。
誰か起きたのだろうか――……なんて思っていると扉が開き、
「…………」
「…………俺も入る」
爆睡していたはずの雨久が現れたのだった。
「え、今日はやめとけよ」
さっきまで酔いつぶれていたのに風呂に入るなんて気分が悪くなってしまうかもしれないのに。
「もう脱いだ」
「それは見ればわかるけど……、ちょっと待てって」
ふらふらとしながら歩き出す雨久が危なっかしくて急いで体を支えた。
「………………」
「着替えるだけ着替えて明日入ればいいだろ?」
別に風呂に入らなければ死ぬわけでもないのに。
「…………天々が」
「?」
「風呂に入っているという事は泊っていくという事だろ……」
「まぁ、そのつもりだけど」
「……だから一緒に入ろうと……思っただけ」
だから入ってきたのか……。
可愛い答えに思わず口元が緩んだ。
「――……わかったよ」
まだ少し酔いが覚め切っていないんだろうけど……そう言われると受け入れてしまうのは仕方ないと思う。
「あ――……でも」
「?」
「なんか危ないから俺が洗ってやるよ」
このまま放っておくと石鹸でも踏んで転んでしまいそうだ。
「それは恥ずかしいから遠慮する」
「今更何を恥ずかしがる必要があるんだよ。
いいから早く座れ」
「…………」
これは拒否されても受け入れられないな。
転んで頭から血でも吹き出されたら困るし、雨露に殺される。
「…………」
特にやらしい事をしようと思って雨久に触れていた訳ではなく
すぐに体も髪も洗い終えた。
その間雨久は大人しくしていたけど……。
「大丈夫? すっごい顔赤いけど」
「…………」
顔が真っ赤だった。
「だから……恥ずかしいから嫌だと言ったんだ……」
そう言った雨久は拗ねたように湯船に沈んだ。
「……もう見ないでくれ」
酔いはすっかり覚めてしまったのかいつも通りの雨久だ。
「………………」
風呂にこうして入る事なんて初めてでも無いし体を洗うのだって初めてでもないのに、何がそんなに恥ずかしかったのかは分からないけど――……。
「可愛いなと思って」
恥じらう姿はいつでも愛らしいと思う。
「…………そういう天々は、」
「?」
「髪を上げていると……かっこいいな」
「………………」
何を言うのかと思えばそんな事で。
まさか褒められるとは。
「はは、お前がそう思ってるならありがたくもらっとく」
別にそんな事はないだろうけど雨久がそう感じてくれたのなら普通に嬉しく思う。
「…………ッ、」
「、」
突然雨久は立ち上がりだし、急ぐようにして湯船から上がった。
「――……まずいな」
「なに?」
「気持ち悪くなってきた」
「…………」
気持ち悪くなってきた……?
「おいおいおい、ちょっと待てよ。我慢しろ」
「……ぅぇっぷ」
「!!!」
風呂場でやられると色々と大惨事になりかねなくて
急いで上がり浴衣も適当に、急いで便所へと雨久を担ぎ連れて行ったのだった。
「……天々の言った通りにすればよかった」
とりあえず大惨事は免れたが縁側で項垂れる雨久は少し、悲しそうだった。
「天々と風呂に入たいなんて我儘を言った罰だな……」
「別にそんな事は無いと思うけど……。
とりあえず水でも飲んどけば」
寒いけど……少しは気分も良くなるだろう。
「ありがとう……」
泥酔した後の雨久は大体こうなる。
わかっていても飲んでいる間は楽しそうで止める事もできないというか……。
そもそも雨露がここになるまで飲ますのが悪い。
雨久が雨露の誘いを断れる訳がないのに。
「気分は?」
それを言うと雨久が更に自分を責め始めるので言葉にはしないけど……。
まぁ――……でもあれは雨露なりに雨久を想っての事なんだろうな。
雨露はあんなんだけど雨久の事を大切にしていることは重々知っているから――……多分そうなんだろうな。
「……大丈夫」
「はは、顔色は良さそうだもんな」
顔にかかった髪を退け、顔色を見ても大丈夫そうだ。
「寝て起きたらすっきりするだろ」
「……だな」
俺の言葉に雨久は立ち上がり、ふたりで雨久の部屋へと戻ったのだった。
きっと明日の朝になれば雨久の気持ちもすっきりしてるんだろうな、なんて考えながら眠りについたのだった。
貢。 終
フリリク企画/リス様
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